「夫婦同姓は日本の伝統」はホント?意外と知らない“苗字”の歴史

政治・経済

「日本の夫婦は同じ苗字を名乗るもの」。これは当たり前のようで、実は法律で決まってからまだ120年余り。しかも、それ以前は「夫婦別姓」が基本だった時代もある…と言われたら、驚きませんか?
今回は、私たちの名前「苗字」に隠された、意外な歴史の旅にご案内します。

なぜ昔の庶民に苗字はなかったのか?

まず、時代劇などを見ても庶民には苗字がありませんよね。その理由は、江戸時代の「士農工商」という厳格な身分制度にありました。

  • 苗字は特権の証: 「苗字帯刀(みょうじたいとう)」という言葉があるように、苗字を公に名乗り、刀を差すことは武士だけに許された特権でした。
  • 身分を区別するため: 支配する側とされる側を明確に分けることで、社会の秩序を保つ目的があったのです。
  • 庶民の「名前」: とはいえ、庶民にも村の中で使う「屋号(〜屋)」や通称はあり、誰がどの家の子か、といった区別はされていました。

全国民が苗字を持つ時代へ(明治時代)

この状況が大きく変わるのが明治維新です。

  • 国民管理の必要性: 新政府は、税金や徴兵のために国民一人ひとりを正確に把握する必要がありました。
  • 「苗字必称義務令」の発令: そこで1875年、すべての国民に苗字を名乗ることを義務付けました。
  • 当時の人々の反応: しかし、多くの庶民は「苗字を名乗ると税金が高くなるのでは?」と警戒し、なかなか届け出が進まなかったようです。「誇らしい」というより「新たな義務」という戸惑いが大きかったのかもしれません。

夫婦同姓はいつから?実は「夫婦別姓」が普通だった!?

そして、本題の「夫婦同姓」です。これも明治時代に定められました。

  • 原則「夫婦別姓」の時代: 驚くことに、国民全員が苗字を義務付けられた直後の1876年、政府は「妻は結婚後も実家の姓を名乗るべき」という指令を出しています。姓はその人の出自を示すもの、と考えられていたためです。
  • 「夫婦同姓」制度の確立: 流れが変わったのは1898年の明治民法。「家」制度のもと、「妻は夫の家に入り、夫の氏を称する」と定められ、法的に夫婦同姓が義務化されました。これが現在の制度の直接のルーツです。

さらに深く!「氏(うじ)」と「苗字(みょうじ)」の古代史

そもそも日本の「なまえ」の歴史はさらに古く、複雑です。

  • 氏(うじ): 古代の豪族の血縁集団を示す名称(例:蘇我氏、物部氏)。
  • 姓(かばね): ヤマト王権が氏に与えた身分や地位を示す称号(例:臣、連)。
  • 苗字(みょうじ): 平安時代以降、武士などが自分の領地の地名などを名乗ったのが始まり(例:足利、徳川)。「家」を示す実用的な名前でした。

江戸時代に武士の特権とされたのは、この「苗字」のこと。私たちの苗字の多くは、この流れを汲んでいるのです。以下でもうちょっと詳しく解説しますね。

士農工商の身分制度が確立する以前、特に日本の国家形成期における「氏(うじ)」の扱いは、現代の「姓(せい)」や「苗字(みょうじ)」とは大きく異なります。

紀元前後の時代から、日本の「氏」がどのように変遷していったのか、その流れを解説します。

1. 古代国家の形成期(紀元前後~古墳時代):「氏」の発生

この時代の「氏」は、血縁を中心とした豪族(ごうぞく)の集団そのものを指す言葉でした。

  • 自然発生的な集団名: 大和(現在の奈良県)に強力な政治権力(ヤマト王権)が生まれる前は、日本列島各地に「クニ」と呼ばれる小国家が点在していました。それぞれのクニを治めていたのが豪族であり、彼らは血縁や地縁で結ばれた集団を形成していました。この集団の名前が「氏」の原型です。例えば、出雲地方の「出雲氏」や、九州の「筑紫氏」などがこれにあたります。
  • 出自と職能を表す: 「氏」はその集団の出自(先祖)や、ヤマト王権の中でどのような役割を担っていたか(職能)を示すものでもありました。

2. ヤマト王権と「氏姓制度(しせいせいど)」(古墳時代~飛鳥時代)

ヤマト王権が勢力を拡大すると、各地の豪族を支配下に置くための政治的な身分秩序として**「氏姓制度」**を確立しました。これが日本の氏の歴史における最初の大きな制度です。

  • 氏(うじ): 前述の通り、豪族の同族集団の名称です。「蘇我(そが)氏」「物部(もののべ)氏」などが有名です。これは世襲されるものでした。
  • 姓(かばね): ヤマト王権の大王(おおきみ)が、それぞれの氏に与える家柄や身分、地位を示す称号です。「臣(おみ)」「連(むらじ)」「君(きみ)」「直(あたえ)」などがあり、氏の名称の後につけて呼ばれました(例:蘇我臣、物部連)。これにより、豪族はヤマト王権の政治体制の中に組み込まれ、序列化されたのです。

この時代の「氏」と「姓」は、朝廷での政治的な地位を示すためのものであり、支配者層だけが持つものでした。

3. 律令国家の時代(奈良・平安時代):「氏」の形骸化と「苗字」の萌芽

7世紀後半から8世紀にかけて、中国の法律(律令)を基にした国家体制(律令国家)が作られます。戸籍制度が整備され、国民は「氏」と名前で登録されました。

しかし、時代が進むにつれて、朝廷内の役職や官位が重要視されるようになり、古くからの「姓(かばね)」の序列は意味を失っていきます。

この頃から、貴族や武士の間で新しい形の「姓」が生まれます。

  • 苗字(みょうじ)の発生: 平安時代中期以降、地方に移り住んだ貴族や武士たちが、自分の所領(荘園や領地)の地名を自らの呼び名として使い始めました。これが**「苗字」**の始まりです。
    • 例えば、清和天皇の子孫である「源(みなもと)氏」という大きな氏族から、足利(現在の栃木県足利市)の地を本拠地とした一族が「足利」を名乗る、といった具合です(例:足利義満)。
    • 「氏」が血のつながりを示すのに対し、「苗字」は家(家系や家業)を示すものであり、より個人的で実用的な名称でした。

まとめ:士農工商以前の「氏」の流れ

時代主な担い手名称意味・役割
古墳時代以前各地の豪族氏(うじ)血縁を中心とした集団の名称。
古墳~飛鳥時代ヤマト王権下の豪族氏(うじ)+姓(かばね)氏姓制度。朝廷内での政治的な地位や家柄を示す。
平安時代以降貴族・武士氏(うじ)
苗字(みょうじ)
:血統を示す格式高い名称(例:源、平、藤原、橘)。<br>苗字:所領の地名などに基づく、家を示す実用的な名称(例:足利、徳川、織田)。

このように、「氏」は古代の血縁集団の名称から始まり、政治的な身分制度である「氏姓制度」を経て、平安時代以降は武士や貴族が使う「苗字」へと発展していきました。

そして、江戸時代の士農工商制度では、この「苗字」を公的に名乗ることが武士の特権とされたのです。

まとめ

いかがでしたか?私たちの「苗字」の歴史を振り返ると、

  • 全国民が苗字を持ったのは、明治時代からの比較的最近のこと。
  • 夫婦同姓制度も、明治時代に「家」制度と共に確立されたもの。
  • そのルーツは、古代の氏姓制度や武士の台頭など、日本の社会構造の変化と深く結びついている。

ということがわかります。普段何気なく使っている自分の名前に、こんな壮大な歴史が隠されていると思うと、少し見方が変わりませんか?

夫婦別姓の導入に、ちぃと慎重な立場からのお話

夫婦別姓をどないするかっていうのは個人の生き方や不便さをなくしたい、という声から出てきた大事な社会問題ですわ。そのお気持ちはほんまよう分かりますねん。せやけど、家族とか社会のあり方がガラッと変わるかもしれん制度やからよう考えなあかんことやと思います。

1. 「家族として一つ」ちゅう気持ちのシンボルとして

結婚ていうんは、個人と個人が結びつくだけやなくて新しい「家族」という単位をこしらえることでもありますねん。

  • 名前はただの印ではない: 家族がみんな同じ苗字を名乗るんは、ただの印を揃えてるだけではなくてええことも大変なことも一緒に乗り越える「家族は一つやで」という気持ちや、周りに対する「うちは一つの家族です」という分かりやすいしるしの役目をずっと担ってきたんやと思います。この大事な意味合いがもし薄れてしまったら家族の結びつきに対する世の中の考え方も、ちょっとずつ変わっていくんちゃうかと心配になります。
  • お子さんの目線で考えたら: お父さんとお母さんの苗字が違うのが当たり前の世の中になれば、大抵のお子さんは何とも思わんと育つんでしょう。せやけど、中には自分の苗字をどっちにするか選ばなあかんかったり(※)、周りから「なんでパパとママの苗字、ちゃうの?」て何回も聞かれたりするうちに、自分のことに複雑な気持ちを抱く子が出てくる可能性もないとは言えません。社会の一番小さい単位である家族のあり方は、お子さんらの心にどう映るかも含めて、慎重に考えなあかんことやと思います。

2. 世の中の仕組みやコストのこと

今の日本の社会の仕組みは、家族は同じ苗字なんを前提に作られてますねん。

  • 戸籍の仕組みとどう合わせるか: 苗字のあり方は、親子関係や相続をきっちり証明する戸籍制度の一番大事なとこに関わってきます。もし別姓を入れるんやったらお子さんの苗字をどっちにするんか、二人目のお子さんはどないすんのか(※)、新しいルールを作らないといけない。そうなったら仕組みがややこしゅうなって、かえって新しいややこしいことや「なんでうちだけ」みたいな気持ちが生まれることになりかねないと思う。
  • 社会全体でかかるお金や手間: それに、別姓を選んだ場合の年金や税金、銀行や保険屋さんやら、あらゆる仕組みを直さなあかんことになります。そら、ものすごいお金も時間もかかることですわ。そこまでして今すぐやらなあかんことなんかという見方も大事やと思います。

結婚の時に、あらかじめ決めておく 夫婦別姓を選ぶ場合は、婚姻届を出す時に「生まれてくる子の姓を、夫の姓にするか、妻の姓にするか」をあらかじめ決めて届け出ることになります。 実質、これが戸籍の「筆頭者」を決めるような形になりますね。

生まれてくるお子さんは、全員同じ姓になる その届け出によって、そのご夫婦から生まれるお子さんは、一人目も二人目も、全員が自動的にその決めた方の姓を名乗ることになるという案が今出ています。

3. 「通称使用の拡大」という現実的な解決策

キャリアの継続やペーパーワークの煩雑さといった、別姓を望む方々が直面している具体的な「不便」は、社会全体で解決すべき喫緊の課題です。

しかし、その解決策は必ずしも「法的な別姓制度の導入」だけではありません。

現在、多くの職場や公的な場面で「旧姓の通称使用」が認められつつあります。この通称使用を、より法的効力のある形で社会全体に拡大・定着させていくことこそ、現実的かつ効果的な解決策ではないでしょうか。

この方法であれば、個人のアイデンティティや社会生活上の利便性を確保しつつ、戸籍制度という社会の根幹を大きく揺るがすことなく、課題を解決できます。肯定派が抱える問題意識を尊重し、その「不便」を解消するための代替案を社会全体で整備していくことが、最も建設的な道だと考えます。

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