米不足なのに輸出強化?食料自給率38%の日本に迫る危機と政策の矛盾

政治・経済

2025年、日本の米価格が高騰し、消費者の生活を直撃する“令和の米騒動”が社会問題になっています。
そんな中、政府は米不足が深刻化する国内での対応を迫られる一方、**「米の輸出拡大」**を掲げている――。

「なんで足りないのに輸出するの?」「食料自給率ってそんなに低いの?」
こうした疑問を抱いた方に向けて、本記事では日本の米政策と食料自給率の現状をわかりやすく解説します。

減反政策の歴史や農業従事者の高齢化、気候変動、そして2025年の小泉進次郎農水大臣の就任による政策転換まで、
いま知っておくべき日本の“食の安全保障”のリアルをデータとともに掘り下げます。

現政府の米政策と食料自給率:矛盾と課題の分析レポート

現政府の米政策と食料自給率

矛盾と課題の分析レポート

2025年5月

エグゼクティブサマリー

本レポートでは、日本の食料自給率の危機的状況と、現政府の米政策における矛盾について分析します。 カロリーベースでわずか38%に留まる食料自給率、「令和の米騒動」と呼ばれる米価格高騰問題、 そして国内で米不足が叫ばれる中で米輸出を推進するという矛盾した政策など、 日本の食料安全保障に関わる重要な課題を多角的に検討します。 また、石破政権下での農水大臣交代と小泉進次郎農水大臣の新政策についても解説し、 今後の政策方向性についての提言を行います。

1. 日本の食料自給率の凄惨な現状

農林水産省の最新データによれば、日本の食料自給率(カロリーベース)は2023年度時点でわずか38%に留まっています。 これは先進国の中でも極めて低い水準であり、食料安全保障の観点から深刻な課題となっています。 また、生産額ベースでも58%と、比較可能な1965年度以降で最低レベルとなっています。

一方、品目別に見ると、米(主食用)の自給率は100%近くを維持していますが、 小麦(約15%)、大豆(約6%)、肉類(約50%)など、 主要な食料の多くを海外からの輸入に依存している状況が続いています。 世界的な気候変動や地政学的リスクが高まる中、食料自給率の低さは国家安全保障上の重大な脆弱性となっています。

主要国 食料自給率(カロリーベース) 特徴
日本 38% 先進国の中で最低水準
アメリカ 130%以上 世界最大の食料輸出国
フランス 130%程度 EUの主要農業国
ドイツ 90%程度 工業国でも高い自給率
イギリス 70%程度 海洋国家ながら自給率維持

2. 「令和の米騒動」と米不足の実態

2024年から2025年にかけて、「令和の米騒動」と呼ばれる米価格の高騰が発生しました。 全国のスーパーで販売される米5キログラムの平均価格は、2024年初頭の約2,100円から2025年5月には 4,200円超へと倍近く上昇し、多くの消費者に衝撃を与えました。

この米価格高騰の背景には、以下のような要因が複合的に関係しています:

  • 長年の減反政策による生産能力低下:1970年から2018年まで約50年間続いた減反政策により、水田面積が大幅に減少し、生産基盤が弱体化
  • 農家の高齢化と後継者不足:平均年齢67.8歳とも言われる農業就業者の高齢化と後継者不足による離農の加速
  • 気候変動による収穫量・品質低下:2023年の猛暑や少雨による収量減少と品質低下
  • 流通構造の問題:JA全農による集荷と販売の寡占状態が市場の柔軟性を低下させている
  • 備蓄米の不足:政府の備蓄米が適正水準を下回る状況にあり、緊急時の対応力が低下
「今回の米価格高騰は過去の米政策の矛盾が表面化した結果であり、単なる一時的な需給ギャップではない構造的問題である」
— 農業経済学者

3. 農水大臣の交代:江藤拓から小泉進次郎へ

2025年5月21日、江藤拓農林水産大臣が「私はコメを買ったことがない」「(コメは)売るほどある」などの失言により辞任し、 石破茂首相は後任に小泉進次郎前環境大臣を任命しました。この人事は、米価格高騰問題への政府の危機感と対応強化の意思を示すものとして注目を集めています。

石破総理大臣の小泉新農水大臣への指示(2025年5月21日):

「現下のコメ価格の高止まり状況に対応するため、消費者に安定した価格でコメを供給できるよう強力に取り組み、 随意契約を活用した備蓄米の売り渡しを検討するように」

小泉新農水大臣は就任会見で、来週予定されていた備蓄米の入札を一旦中止し、個別の相手に売り渡す「随意契約」に切り替える方針を表明。 また、店頭で5キロあたり「2,000円台」で提供できる形での備蓄米放出を目指すと発言しました。 これは、前任の江藤大臣とは異なり、より積極的な価格抑制策を打ち出す姿勢を示しています。

小泉農水大臣の主な発言と政策方針

  • 「『コメは作らないで』という農政から、意欲をもって作り、余っても海外輸出するなど中長期を見据えた農政の根本的改革を実現したい」
  • 「政府備蓄米を5キロ2,000円台で店頭に届ける」
  • 「備蓄米の入札を中止し、随意契約による放出を検討」
  • 「長年の減反政策からの転換を視野に」

4. 米不足にもかかわらず輸出推進する矛盾

日本国内で米不足が叫ばれ、価格が高騰している状況にもかかわらず、政府は同時に日本産米の輸出拡大を推進するという矛盾した政策を継続しています。 新しい食料・農業・農村基本計画では、2030年までに米輸出を現在の9倍となる39.6万トンに増やす目標を設定しています。

この矛盾の背景には、以下のような要因があります:

矛盾の実態

  • 国内価格が高騰する中での輸出拡大計画
  • 食料自給率向上と米輸出拡大の両立の困難さ
  • 減反政策継続と輸出拡大の整合性の欠如
  • 国内の食料安全保障と輸出振興策の対立

政府の論理

  • 高付加価値米の輸出で農家所得向上
  • 海外市場開拓による日本農業の活性化
  • 国内需要減少を輸出で補完する戦略
  • 減反政策廃止後の米生産調整の新手法
「日本の米政策の最大の矛盾は、国内で作付け制限をしながら輸出を推進するという点にある。国内で不足するものを輸出すれば、さらに不足するのは自明である」
— 農業政策研究者

キヤノングローバル戦略研究所の論説では、「コメの自給率は243%となり、全体の食料自給率は60%以上に上がる。 最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止によるコメの増産と輸出である」との指摘もあります。 この見解は、むしろ米を増産し、余剰分を輸出することで食料安全保障と農業振興の両立が可能だと主張しています。

5. 食料安全保障の危機と今後の政策転換

日本の食料安全保障は、低い自給率と米騒動によって改めてその脆弱性が浮き彫りになりました。 食料は国家安全保障の重要な柱であり、特に不安定化する国際情勢の中で、国内生産基盤の維持・強化は喫緊の課題です。

食料安全保障上の主な課題

  1. カロリーベース自給率38%という危機的状況
  2. 主食である米の生産基盤の弱体化
  3. 農業従事者の高齢化と後継者不足
  4. 気候変動による収量・品質への影響の増大
  5. 国際的な食料供給チェーンの不安定化

石破政権は、こうした危機感を背景に、新たな食料・農業・農村基本計画において、 2030年度の食料自給率目標をカロリーベースで45%、生産額ベースで75%に設定しました。 また、新たな指標として「摂取カロリーベース」の食料自給率も導入し、現状45%から53%への向上を目指しています。

小泉農水大臣の就任は、こうした食料安全保障政策の強化と、特に米政策の抜本的な見直しを加速させる可能性があります。 「作らない農政から作る農政へ」という方針転換は、長年続いた減反政策からの脱却を意味し、 日本の農業政策における大きな転換点となる可能性があります。

6. 米増税の噂と真相

米価格高騰の中、一部では「米に対する増税が検討されている」との噂も流れましたが、 現時点では政府による米に対する新たな増税政策は確認されていません。 むしろ、小泉農水大臣の就任後は、備蓄米の放出による価格抑制策が強化されています。

ただし、トランプ米大統領の「相互関税」政策による日本への24%の追加関税が実施され、 米を含む輸入食料品に影響を与える可能性があります。これは、国内の米価格にも間接的に影響する可能性がありますが、 直接的な「米増税」とは異なるものです。

米政策に関する事実確認

政府による米増税政策の検討 確認されていない
米価格抑制のための備蓄米放出強化 実施中・拡大方針
米の生産拡大方針への転換 小泉農水大臣が表明
トランプ関税による輸入食品への影響 影響の可能性あり

7. 今後の米政策と提言

収集したデータと専門家の分析に基づき、日本の食料自給率向上と米政策の改善に向けて、以下の政策提言を行います。

短期的対策

  • 備蓄米放出の流通経路の多様化と迅速化
  • 米小売価格の監視強化と不当な値上げの抑制
  • 低所得者向けの米購入支援制度の拡充
  • 一時的な米輸入関税の引き下げも検討

中長期的対策

  • 減反政策の完全廃止と米増産への政策転換
  • 若手農業従事者の育成と支援強化
  • 気候変動に強い稲作技術の開発と普及
  • 米の流通構造改革と競争促進
  • 食料安全保障を最優先とした自給率向上政策

特に重要なのは、「作らない農政」から「作る農政」への転換です。長年続いた減反政策は、 結果的に日本の米生産基盤を弱体化させ、農家の高齢化と相まって今回の米不足と価格高騰を招きました。 小泉農水大臣が掲げる「意欲をもって作り、余っても海外輸出する」という方針は、 食料安全保障と農業振興の両立を目指す正しい方向性と言えます。

「日本の食料自給率向上には、まず主食である米の生産基盤を強化し、その上で小麦や大豆などの自給率向上に取り組むべきだ。 国内生産を抑制する政策から、増産と輸出を両立させる政策への転換こそが、真の食料安全保障につながる」
— 農業政策専門家

まとめ

日本の食料自給率の危機的状況と「令和の米騒動」は、長年の農業政策の矛盾が表面化した結果と言えます。 カロリーベース自給率38%という低水準、国内米不足にもかかわらず輸出を推進するという矛盾した政策、 そして農業従事者の高齢化と後継者不足など、多くの課題が山積しています。

しかし、石破政権における農水大臣の交代と小泉進次郎新大臣の就任は、 これまでの「作らない農政」から「作る農政」への転換点となる可能性を秘めています。 食料は国家安全保障の基盤であり、今後の農業政策は自給率向上を最優先課題として 位置づけるべきです。そのためには、減反政策の完全廃止、生産基盤の強化、 流通構造の改革など、抜本的な改革が求められています。

参考文献・情報源

  • 農林水産省「日本の食料自給率」(2025年)
  • キヤノングローバル戦略研究所「食料安全保障に矛盾する米政策」(2024年12月)
  • NHK「小泉新農相 就任会見で「備蓄米入札を中止 随意契約を検討」」(2025年5月)
  • 農林水産省「食料・農業・農村基本計画」(2025年)
  • 日本経済新聞「2025年産米の生産、伸びが過去最大 コメ高騰で農家が増産に意欲」(2025年5月)
  • 朝日新聞「備蓄米『5キロ2千円台で店頭に』小泉農水相が見通し示す」(2025年5月)

本レポートは、2025年5月時点の情報に基づいて作成されています。

© 2025 食料政策研究会

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