「言葉には霊力が宿る(言霊)」とはよく言ったもので、何気なく口にした言葉が、そのまま運命を決めてしまうことがあります。
今から書くのは、私が先日、家族や親友と一緒に京都を訪れた際に起きた【実話】です。
あまりにも出来すぎた展開に「作り話だろ?」と思われるかもしれませんが、すべて私の目の前で起きた紛れもない事実です。
神様という存在は、時として残酷なほど完璧な脚本を書く。その証拠を、皆さんにお見せしようと思います。
桜が舞う4月の金曜日。京都へ向かうアルファードの車内は、男二人の渋いドライブ……とは程遠く、まるで修学旅行のような喧騒に包まれていた。
運転席には俺、助手席には親友。そして後部座席には、うちの嫁と子供2人、さらに嫁の友達とその息子の計5人がひしめいている。総勢7人の大所帯だ。後ろからは子供たちの笑い声と、嫁たちの楽しげなおしゃべりが絶え間なく聞こえてくる。
今回の目的は、妻が希望した「縁切り神社」への参拝。それに親友や妻の友達親子が便乗した形だ。人生半ばに差し掛かって、切っておきたい悪縁の一つや二つあるものだ。
助手席で缶コーヒーを握りしめている親友とは、30年来の付き合いになる。45歳、独身。最近仕事を辞め、週末は資格を取るために学校へ通い始めたばかりだ。不器用で、どう見てもしなくてもいい苦労ばかりを自ら背負い込んでいく、お人好しな男である。
京都南インターの出口渋滞に巻き込まれ、「春休みやし駐車場空いてるかな」と俺が気を揉んでいた時、親友が唐突に口を開いた。
「なあ、この前YouTubeでこんな話を聞いたんやけどな」 「ん? どんなんよ?」 「お参りとかして神様にお願い事するやろ? で、神様は願い事を聞いてくれる代わりに、その人に長生きしてもらうんよ。ようするに『生きる=修行』やから、願いを叶える代わりに現世で長く生きて苦しんで修行しなさい、って事らしいわ」
後ろのワイワイとした平和な空気とはあまりにも不釣り合いな、重すぎる人生の悟り。俺は思わず吹き出しそうになりながら、「なるほどな」と適当に相槌を打った。 まさかこの時、この言葉を京都の神様が特等席で聞いていて、壮大な「伏線」としてセットしたことなど、俺たちは知る由もなかった。
その後は予定通り、安井金比羅宮ででかい体を縮めて縁切り岩をくぐり、河原町で息子のスニーカーを探し、インバウンドで様変わりした錦市場で串をかじり……と、賑やかな家族旅行を満喫した。
そして夕暮れ時。歩き疲れた子供たちをなだめすかし、この日最後の目的地である「北野天満宮」へ到着した。 ここは、資格試験という名の「修行」に挑もうとしている親友のために、俺が予定に組み込んでいた場所だ。提灯に明かりが灯り始めた幻想的な境内を、撫で牛を撫でながら本宮へと進む。
「あ! おみくじ引きたい!」 来年受験を控えた娘が社務所へ駆け寄った。選んだのは5種類(鶴、的、亀、大黒天、丑)から引く特別なおみくじだ。 「『的(学問成就)』が当たったらいいなー」と祈りながら娘が引いた結果は——見事『的』。
「おお! やったやん!」 家族全員で喜び、さあ次は誰だと盛り上がる中、親友がスッと前に出た。
「俺も引こうかな」 5つのうち、的(学問成就)、鶴(飛躍)、丑(諸願成就)が出れば大当たりだ。俺は軽い冗談のつもりで声をかけた。 「お前は大黒天と亀以外がええんちゃう?」 「そうやな、5分の3やし大丈夫やろ」
親友が、くじを引く。 開かれた紙を見た瞬間、ワイワイしていた周囲の音がふっと消えたような気がした。
そこに書かれていたのは、『亀(長寿)』。
俺と親友は無言で顔を見合わせた。 ——『願い事を聞く代わりに、長生きして修行しなさいって言うんよ』。 行きの車内で彼が語った言葉が、脳内でリフレインする。「長寿=終わらない修行」という神様からの強烈なメッセージ。
「…………」 言葉を失う親友の顔に、明らかな焦りが浮かんだ。普段なら自虐で笑い飛ばすはずの男が、冗談も言わずにくるりと背を向けた。 「あ、あっちにもう1つ普通のおみくじあったよな。あれやってくるわ!」
小走りで駆けていく背中を見て、俺は背筋にゾクッと冷たいものが走るのを感じた。あいつ、本気で動揺してる。普段のあいつならおみくじを引き直すなんて絶対にしないのに。このまま「亀」を引いたままでは、自分の人生が本当に「終わりのない修行」になってしまうと本能で悟ったのだ。
昔ながらの筒に入ったおみくじ。 親友は縋るような思いで筒をガサガサと振り、1本の棒を引き抜いた。
「何番が出たん?」
「『4』番」
「まじか…」
——よ、4? 不吉な数字の代名詞に、嫌な予感がさらに加速する。手渡された紙を受け取った親友が、ゆっくりとその内容に目を落とした。
次の瞬間、彼の顔からスッと血の気が引いていくのがわかった。 俺が駆け寄り、肩越しに覗き込んだその紙には、残酷なまでにハッキリと、一つの文字が刻まれていた。
『凶』
そして、その下に添えられていた、聞き馴染みのない不気味な四文字熟語。
【 艱 難 辛 苦 】(かんなんしんく:困難に遭い、辛く苦しい思いをすること)
「……っ!」 見事すぎる。あまりにも完璧な脚本だ。 神様は、彼の言葉をすべて聞いていたのだ。そして、彼が「亀」から逃げようと足掻くことすら見越して、最悪の数字と、これ以上ない「修行宣告」を用意して待ち構えていた。
後ろでは、おみくじに一喜一憂する子供たちの楽しげな声が響いている。 だが、俺と親友の周りだけは、神様の巨大な手のひらの上で完全にロックオンされたような、圧倒的な静寂に包まれていた。
「……お前、どんだけ修行させられんねん」
沈黙を破った俺の言葉に、親友はただ乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
夜の帳が下りる北野天満宮。45歳、男の試練は、今まさに始まろうとしていた。
【後書き】 事実は小説より奇なりと言いますが、人生でこれほど見事な「伏線回収」を目の当たりにしたのは初めてでした。
皆さんも、神社で「これは神様に見られてるな…」と震えたような、引きの強すぎるおみくじエピソードはありますか? もしあれば、ぜひコメント欄やSNSで教えてください。彼を励ます材料にさせていただきます(笑)。

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